生産者さんインタビュー湘南に残された、ただひとつの酒蔵『熊澤酒造』さん vol.2
今回お届けした米麹と酒粕は、明治五年創『熊澤酒造』さんのお裾分け。地域に根ざし歴史を背負う酒蔵の、今の挑戦とは。
一回立ち止まらないと
いけないな、と。
– 湘南の食文化を守り、牽引する熊澤酒造さんが、どのような想いで『酒米プロジェクト』をはじめられたのでしょうか。
「140周年(12年前ですかね)を迎える時に、歴史を振り返る機会があったもんですから、親戚や先代に話を聞いているうちに、場所の歴史や風土の背景に気づきはじめて、その時に1回立ち止まらないといけないな、と」
僕らの親世代がいなくなったら
湘南地区から田んぼが
なくなってしまうかもしれない
「僕が生まれた時はちょうどこの辺の地域の劇的な変化の時だった。もの心ついた時には、もう田んぼが消えていて、僕が入社する頃には住宅地になっていった。だからちっちゃい頃の記憶としては、自分たちで田んぼを耕しているイメージがなかった。
でも、10歳ぐらい年上のいとこたちに話を聞いてみると、小さい時は田んぼの手伝いをしていた。近所でも田んぼをやって、お酒造りをしていたということを知ったのです。」
「それから、50歳ぐらいが近づいてくると同窓会があるんですね。そこでまた同級生に話を聞くと、実家が農家という人も多くて。おじいちゃんの代は専業農家で、親父の代はみんなサラリーマンになっていて繁忙期の土日だけ手伝っていた。そういう人たちが定年退職して、また田んぼをやっているけど、僕らの親世代がなくなったら、いよいよ湘南地区から田んぼがなくなってしまうかもしれない。」
湘南地区の田んぼが
なくなっていくのを救えるのが
造り酒屋なんじゃないか
「そんなことがあったから、僕もこの辺の田んぼについて色々調べたら、年々耕作放棄地が増えて来ていて、今後その流れが加速していく事が分かった。
それで、湘南地区の水田が一気になくなっていくのを救えるのが、湘南地区で造り酒屋しかいないんじゃないか、と考えて。やっぱり、大量にうちがお米を使っていて、直接的なもんですから。
それで、まずは自分たちが酒米を作って、農家の人たちに酒米づくりに興味を持ってもらおう、そういうことで酒米プロジェクトがはじまったんです。
今4つくり目ですが、3つくり目ぐらいから、お酒が好きな農家の人たちを中心に、酒米づくりを教えてくれないか?どうすればいいんだ?と人が集まって来てくれています。」
耕作放棄地を僕らが引き継ぎ
田んぼの源風景を未来に繋ぐ
「今は全生産量の40%が、地元のお米で作ることが出来るようになった。ただ、毎年やめざるを得ない農家が多く出ている。今その人たちから声がかかっていて、耕作放棄地になっちゃうのを僕らが引き継ぐことで維持しているんです。」
こういう田んぼの風景が本来の姿
四十年間の空白を取り戻している
「今、目の間にある風景が当たり前というふうに考えずに、歴史を全部見ると、こういう田んぼが広がっている風景の方が本来の姿。僕らの取り組みで、四十年間の空白を取り戻している、元に戻している感じ。今やらないと、ゼロになっちゃう。今だったら少し、残せる。」
長い歴史の中で
色々と危機があって
それを乗り越えたり
また時代の大きな変化で
新しくチャレンジしたりということがあっていつの間にかなくなってたりする。
そういった長いものを
一個一個その時代に合わせて
取り組んできたのが
僕たちがやってきたこと。
日本が急激に変わっちゃったのって
歴史的にはすごく短い期間。
今の状態が決して普通なわけじゃない。
過去が全て良かったわけでもないけど
脈々と伝わってきたものを
もう一度見直す
タイミングなんじゃないかな。
取材協力
熊澤酒造株式会社
HP:https://kumazawa.jp/
instagram : @kumazawabrewing